最高裁判所第一小法廷 昭和50年(オ)153号 判決 1975年10月09日
主文
原判決中上告人ら敗訴部分を破棄し、右部分につき本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人南条保の上告理由について
一 原審の認定判断は次のとおりである。
1 本件交差点は、幅員約一二メートルの南北に通じる国道一〇号線と東西に通じる幅員七メートルの市道がほぼ直角に交差する、信号機がなく、かつ、交通整理の行われていない交差点であるが、昭和四六年三月一日午前六時ごろ、被上告人大田原が運転して国道を南進中の本件自動車と亡菊池時宗が運転して市道を東進中の本件自転車が右交差点内の右自動車の進路通行帯中央付近で衝突した。
2 被上告人大田原は、時速五〇キロメートルで本件自動車を南進させ、本件交差点の手前にさしかかつたが、同交差点の南約二五〇メートル先の交差点の信号機の信号にのみ気をとられ、本件交差点の左右及びその付近を注視、確認することなく、漫然と前記速度で本件交差点に進入し、本件自転車と衝突するまでこれに全く気付かなかつたのであり、同被上告人には、交差点通過に際し自動車運転者として尽くすべき前方を注視、確認すべき注意義務を怠つた過失がある。
3 亡時宗は、本件交差点が交通整理の行われていない交差点であり、本件自動車の進行してきた国道は、自己が本件自転車で進行する市道より幅員の広いことが明らかであるから、右交差点に進入するにあたつては、右自動車の進行を妨げてはならない注意義務があるのにこれを怠り、また、本件事故当時は、早朝、降雨中で、あたりは薄暗かつたのに本件自転車を無灯火のまま運転し、その点においても注意義務を怠り、過失があつた。
4 そして、被上告人大田原、亡時宗双方の右過失の本件事故発生に対する寄与率は、被上告人大田原の過失割合六、亡時宗の過失割合四と解するのを相当とする。
二 しかしながら、道路交通法旧三五条一項(昭和四六年法律九八号による改正前のもの)によると、本件事故発生当時、交通整理の行われていない交差点の通行方法として、先入車両の優先が定められていたのであり、このことは、交差点における事故発生についての過失を判断するにあたつて、他の事情とともに十分考慮すべきであるところ、原審の適法に確定した本件交差点の状況、本件事故発生地点及び本件自動車の進行速度によると、本件自転車が先入車両であることがうかがわれるのであつて、右先入車両優先の原則をも考慮すると、原審の定めた被上告人大田原の過失割合は著しく低きにすぎ、右判断は裁量権の範囲を逸脱して違法であるといわなければならない。そして、右違法は、前記過失割合に基づいて上告人らの損害賠償債権額を認定した原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。そうすると、論旨は理由があり、原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れず、亡時宗の過失の有無ないし過失割合について更に審理を尽すため、右破棄部分につき本件を原審に差し戻すのを相当とする。
よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判官 岸 盛一 裁判官 下田武三 裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光)